公共事業の施行に伴う敷地面積の減少による既存不適格物件の補償について

2014年08月07日/ 補償等に関する業務関係

公共事業の施行に伴う敷地面積の減少による既存不適格物件の補償について
喜納(清淳)行政書士事務所
( 特 定 行 政 書 士 )

・旅館業、民泊の手続き業務
・審査請求代理、提出書類作成業務
・公共事業建物等補償業務  
・土地区画整理事業手続き業務
・開発行為許可申請業務
・情報公開請求の手続き業務
・産業廃棄物処理業手続き業務
・相続、遺産分割協議書等作成業務
・各事業の企画書作成業務 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 公共事業の施行に伴い、敷地の一部分を起業者に買収された結果、買収後の残地では支障とならない建築物が建築基準法の違反建築物となる場合が時折発生する。
 所謂、既存不適格建築物の誕生である。

 今回は、公共事業に支障がある建築物の敷地の一部分買収により容積率及び建ペい率違反になる場合の補償について、検討した結果をまとめてみた。


1.残地の既存建築物が既存不適格になる場合

(1)既存不適格とは

 建築基準法には既存不適格の取扱いがあり、この既存不適格の取扱いにつき平成16年(2004年)6月2日に、「建築物の安全性及び市街地の防災機能の確保等を図るための建築基準法等の一部を改正する法律」により法改正がなされ、公共事業の施行に伴い敷地面積が減少する場合にあっては、建べい率など敷地面積の制限に係る規定については、いわゆる既存不適格の取扱いがなされることとなった。

 既存不適格とは、建築基準法又はこれに基づく命令若しくは条例(以下「建築基準法令」という。)の規定が新たに施行又は適用される場合に、施行等がされる前から存する建築物とその敷地が当該規定に適合しなくても、違反建築物とはみなさないという取扱いですが、この取扱いが公共事業の施行に伴い敷地面積が減少する場合にも準用された。

 すなわち、今回の事例のように用地買収により建築物の敷地面積が減少し、その結果、容積率及び建ペい率に関する建築基準法令の規定に適合しなくなっても、この敷地面積の減少は公共事業の施行を原因とするものであることから、違反建築物とはみなさず、土地買収後にそのまま建築物を存置しても、建べい率の制限には違反しないものとみなされる。

(2)既存不適格と既存建築物の違法状態

 (1)で述べたように、用地買収によって敷地面積の減少が生じ、その結果、建築物が敷地面積に関連する建築基準法等の規定に適合しなくなる場合は、既存不適格建築物の扱いとなることとされた。すなわち、建築基準法上の問題が解釈ではなく、法改正のかたちで解決されたわけである。

 今回の法改正の結果、既存不適格建築物扱いとされ、法規制の対象から適用除外となったから、かねて心配していたいわゆる措置命令が出されないことになったが、被補償者の、今後、保有することとなる残地での建築物の保有が違法状態に置かれることに変わりはない。

(3)残地内既存建築物の違法状態化の発生

 用地買収前までは適格であった建築物が、用地買収後、被補償者の今後保有することとなる残地での建築物の保有は、違法状態に置かれることになる。

 法改正により既存不適格扱いとなったとしても、初めから自らの事情で既存不適格であったのではなく、違法状態にした原因者は起業者であるというわけだ。
 起業者は当該建物の移転や敷地の全面買収の検討が必要になると考える。

 特に、既存建築物が、残地ぎりぎりの状態で残ることとなった場合、これまで憩いの場としていた庭園や植栽、花壇などがすべて撤去される上、残地内には再築不可能の状態となる。
このことは日常生活にも計り知れない支障が出てくることは、火を見るよりも明らかだ。


2.買収用地に支障のないとのことで既存建築物が移転対象となってない場合

 今回の事例は、道路用地として用地を買収する必要が生じたが、既存建築物は、建築確認時(用地買収前)、容積率及び建ぺい率は余裕のある面積で建てられていた。
 しかし、用地買収後の減少した敷地面積では、容積率及び建ぺい率違反となってしまうが、買収用地に支障がないとのことで、既存建築物が移転対象となってない。

 建築物の移転工法の検討に当たっては、有形的・機能的・法制的・経済的検討を行うことが必要であり、法制的検討としては建築基準法等の制限も考慮に入れる必要がある。
 そのため、従来から、敷地が減少することにより容積率や建ぺい率の制限に違反することとなる場合には、残地は通常妥当な移転先とならないとして、構外を移転先として選定するのが通常である。

 このことは、起業者は法を遵守すべき国又は地方公共団体等の公益事業者であるから、市民等の財産保有状態を違法にしたまま放置しておくことは許されないという趣旨からであろう。
 仮に残地を移転先とした場合、将来、被補償者が建物を建て直す必要が生じた時に、構外に移転せざるを得なくなり、潜在的な負担を負うことになる。


3.残地での生活再建の問題点

 残地において生活再建を図るには、次の点について留意する必要がある。

(1)植栽や車庫の配慮

 残地が合理的な移転先となるかどうかの認定をする場合の判断基準として、従前の建物と同種同等の建物を、残地での植栽、自動車保管場所その他の利用環境を考慮することとされた。(用対連細則第15 第1 項(四)1)
すなわち、植栽や車庫への配慮は、生活補償が考えられていることになる。

 今回の事例からすると、用地買収後の敷地(残地)は容積率及び建ぺい率の確保もできない違法状態の中で、植栽や車庫などの確保が大変厳しい状況にあり、生活環境は悪化すると言える。

用対連細則

第15 基準第28条(建物等の移転料)は、土地等を取得する場合においては、次により処理する。
1 建物の移転料については、次により算定する。
(四) 通常妥当と認められる移転先の認定は、次の各号に定めるところによるものとする。
一 従前の建物と同種同等の建物を、植栽、自動車の保管場所その他の利用環境の面を考慮した上で残地に再現することができると認められるときは、残地を通常妥当と認められる移転先と認定するものとする。


(2)建築物の機能の確保

 従前の建築物の機能を確保するために必要な建築物階数の増加,建築物の形状の変更,床面積の増加,構造の変更,設備の設置を検討し,従前の生活を残地で継続できるための配慮をしている(同細則第15 第1 項(四)2)。

 今回の事例からすると、建築物の機能を確保するために建築物階数の増加等考えられないこともないが、従前の生活を残地で継続することは、(1)で述べたことなど総合的に勘案すると、従来利用していた目的に供することが著しく困難な環境にある。よって、構外移転を選定するのが通常であると考える。

用対連細則

第15 基準第28条(建物等の移転料)は、土地等を取得する場合においては、次により処理する。
1 建物の移転料については、次により算定する。
(四) 通常妥当と認められる移転先の認定は、次の各号に定めるところによるものとする。
二 従前の建物の機能を確保するために必要と認められる最低限の建物階数の増加又は建物の形状の変更並びにこれらに伴う床面積の増加、構造の変更又は設備の設置を行うことにより、従前の建物と同等の規模であり、かつ、植栽、自動車の保管場所その他の利用環境の面において従前の建物に照応する建物(本条及び次条において「従前の建物に照応する建物」という。)を残地に再現し、従前の生活又は営業を継続することができると認められるときは、残地を通常妥当と認められる移転先と認定できるものとする。


 起業者に財産を事業用地として買収されることにより、生活の基盤が変わってしまう被補償者に対して、従前と同等の生活の復元が図られなければならないとの考え方が、「生活補償」である。
この生活補償の観点から、残地を買収してしまうことや、建築物を移転する補償を行うことも考えられ、このように考える見解は多い。

 残地収用(取得)の要件としての「従来利用していた目的に供することが著しく困難となるとき」(土地収用法76条1項および用対連基準54条の2第1項)に該当するという裁決例がある(大阪府収用委員会 昭和43.11.5)。


土地収用法

 (残地収用の請求権)
第76条 同一の土地所有者に属する一団の土地の一部を収用することに因って、残地を従来利用していた目的に供することが著しく困難となるときは、土地所有者は、その全部の収用を請求することができる。

用対連基準

 (残地の取得)
第54条の2 同一の土地所有者に属する一団の土地の一部の取得に伴い当該土地所有者から残地の取得を請求された場合において、次の各号のすべてに該当するときは、これを取得することができるものとする。
一 当該残地がその利用価値の著しい減少等のため従来利用していた目的に供することが著しく困難になると認められるとき。



4.妥当な移転工法の検討について

(1)財産権(憲法第29条)と平等原則(憲法第14条)

 憲法第29条第3項は、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」としており、財産権を公共の利益のために、正当な補償を行った上で収用したり(公用収用)、制限したり(公用制限)することが認められている。
 
 ここでいう「正当な補償」の解釈については、生じた損失のすべてについての完全な補償を要するとする「完全補償説」が有力で、土地収用法における損失の補償については、判例(最判昭48.10.18)は完全補償説に立っている。

 次に、「損失補償」は、適法な公権力の行使によって生じた特別の犠牲を全体的な公平負担の見地から調整するための法技術である。所謂、不平等な負担を平等な負担に転換するための技術的手段として設けられたのが損失補償制度といえる。

 この意味で、損失補償制度は、憲法29条の財産権保障とともに憲法14条の平等原則をその基礎としているといえる。

 損失補償制度の法体系については、
「憲法」→「土地収用法等関係法令」→「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」→「公共用地の取得に伴う損失補償基準」→「公共用地の取得に伴う損失補償基準細則」→「用対連基準・細則・運用」→「各自治体の損失補償基準・細則等」
により工法の認定、補償金額等の決定がなされる。

憲法

第29条 財産権は、これを侵してはならない。
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

第14条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。


(2)妥当な移転工法の検討について

 起業者が地権者に支払う補償金を算定するにあたり、建物等の移転については、通常妥当と認められる移転先に、通常妥当と認められる移転方法によって移転するのに要する費用を補償すべきものとされている(公共用地の取得に伴う損失補償基準第28条)。

 この移転先と移転方法の検討にあたっては、有形的・機能的・法制的・経済的検討を行うこととなるが、法制的検討としては建築基準法等の制限も考慮に入れる必要があり、まず移転先として、残地又は残地以外の土地のいずれとするかについて認定する必要がある(公共用地の取得に伴う損失補償基準細則第15)。

損失補償基準

 (建物等の移転料)
第28条 土地等の取得又は土地等の使用に係る土地等に建物等(立木を除く。以下この条から第30条まで及び第42条の2において同じ。)で取得せず、又は使用しないものがあるときは、当該建物等を通常妥当と認められる移転先に、通常妥当と認められる移転方法によって移転するのに要する費用を補償するものとする。この場合において、建物等が分割されることとなり、その全部を移転しなければ従来利用していた目的に供することが著しく困難となるときは、当該建物等の所有者の請求により、当該建物等の全部を移転するのに要する費用を補償するものとする。

損失補償基準細則

第15 基準第28条(建物等の移転料)は、土地等を取得する場合においては、次により処理する。
1 建物の移転料については、次により算定する。
(一) 建物を移転させるときは、通常妥当と認められる移転先を残地又は残地以外の土地のいずれとするかについて認定を行った上で、当該認定に係る移転先に建物を移転するのに通常妥当と認められる移転工法の認定を行い、当該移転先に当該移転工法により移転するのに要する費用を補償するものとする。この場合において「移転」とは、従前の価値及び機能を失わないよう、土地等の取得に係る土地に存する建物を当該土地の外に運び去るすべての方法をいうものとする。


 ところで、移転工法を検討する際に問題となるのは、既存不適格となる移転先を通常妥当な移転先として、通常妥当な移転工法で移転するものとして認定することが妥当と判断されるかという問題です。
 既存の建築物を残地に残すことは、既存不適格として存置することは可能となるが、起業者としては、このような移転工法を認定することが妥当かという問題がある。

 既存不適格となる移転先及び工法を認定するということは、引き続き現在と同規模の建築物を利用することは可能ですが、建て替えや修繕等の際には基準に適合した建築物とする必要が生じ、現在と同規模の建築物とすることはできず、結果的に建築物の縮小か構外移転をせざるを得なくなり不都合が生じるということで、このような負担を所有者に負わせることとなる。

 将来、地権者が建替えを必要とする際には、建ぺい率に適合した建築物としなければならないので、建物面積を縮小するか、構外移転する必要が生じてくる。

 このような潜在的な負担を地権者に負わせるような移転工法は、建築物を存置することが法的に不可能ではないといっても、直ちに通常妥当な移転先と認定することは困難であると考える。

そのため、従来から、敷地が減少することにより建ぺい率や容積率の制限に違反することとなる場合には、残地は通常妥当な移転先とならないとして、構外を移転先として選定することとしていた。
 ただし、仮に残地を移転先とした場合、将来地権者が建物を建て直す必要が生じた時に、地権者は構外に移転せざるを得なくなり、潜在的な負担を負うことになる。

 建築基準法令の趣旨から言っても、既存不適格の状態は本来好ましいものではないので、積極的に既存不適格の状態を拡大することは起業者の立場としては適切ではないと言うべきでしょう。
 したがって、今回の事案のように既存不適格が認められるようなケースであっても、構外を移転先として認定する積極的運用が望ましいものと考える。


5.結 論

 これまで述べたように、今回の事例についてまとめると、次の理由により既存建築物を残地に違法状態のまま保有するのではなく、構外再築を妥当な移転工法として認定すべきと考える。

① 残地の既存建築物が既存不適格になり、違法状態となることは、建築基準法令の趣旨から言っても、既存不適格の状態は本来好ましいものではなく、既存不適格の状態を拡大することは起業者の立場としては適切ではない。

② 用地買収後の敷地(残地)は容積率及び建ぺい率の確保もできない違法状態の中で、植栽や車庫などの確保が大変厳しい状況にあり、生活環境は悪化するといっても過言ではない。

③ 建築物の機能を確保するために建築物階数の増加等考えられないこともないが、従前の生活を残地で継続することは、総合的に勘案すると、従来利用していた目的に供することが著しく困難な環境にある。

④ 公共事業の施行に伴う収用手続や収用権を背景とする任意買収により生ずるものである場合、地権者としては積極的に法令違反の状態を創出する意図からするものではなく、公共事業に協力(それが任意によるものか強制によるものかを問わず)するためにしたものであり、地権者に違反建築物又は違反敷地に係る不利益を負担させることは不合理である。


 都市計画法は、「都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もつて国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的」とし。「適正な制限のもとに土地の合理的な利用が図られるべきこと」を基本理念としている。
 また、建築基準法令の趣旨から言っても、既存不適格の状態は本来好ましいものではなく、積極的に既存不適格の状態を拡大することは起業者の立場としては適切ではないと言うべきでしょう。

 起業者は法を遵守すべき地方公共団体であるから、市民の財産保有状態を違法にしたまま放置することは許されないということであろう。


参考文献

・西埜章、田辺愛壹著  詳解 損失補償の理論と実務(プログレス)
・問答式 用地取得・補償の法律実務(新日本法規)
・田辺愛壹、海老原彰著  用地買収と生活補償(プログレス)
・海老原彰、廣瀬千晃著  用地買収と損失補償(プログレス)
・田辺愛壹著  損失補償制度(清文社)
・用地ジャーナル2005 年(平成17 年)5月号(大成出版)
・松尾弘著  財産権の保障と損失補償の法理(大成出版)
・新版 公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱の解説(近代図書)
・用地取得と補償(財団法人 全国建設研修センター)



******************************************************************
仕事は遅く、報酬は高いが、
分かりやすい説明と正確で確実な仕事の処理がモットーです。
建物補償関係の業務のご相談など大歓迎です。! 

 「喜納(清淳)行政書士事務所」へのお問い合わせ、ご相談などは、
メールかFAXでお願い致します。
   沖縄県うるま市字兼箇段1403番地1
 TEL : 070-5277-8985
  FAX : 050-3488-8680
       E-Mail : kinas@road.ocn.ne.jp


公共事業の施行に伴う敷地面積の減少による既存不適格物件の補償について

******************************************************************





同じカテゴリー(補償等に関する業務関係)の記事
農地法と土地収用法
農地法と土地収用法(2022-03-13 20:40)


Posted by Seijun Kina at 21:55│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。